毎日新聞 2019年9月13日 18時50分(最終更新 9月13日 18時57分)
乳牛が乳房炎にかからないように、手作業で搾乳をする滝原康司さん。だが、搾った乳は廃棄するしかない=千葉県鴨川市で2019年9月12日、中島章隆撮影
台風15号に伴う大規模停電は、全国有数の生乳産地として知られる千葉県の酪農家に深い爪痕を残している。停電で搾乳機は動かず、牛の健康のためには手作業で乳搾りを続けなければならないが、冷蔵庫も使えないため搾った乳は捨てるしかない。「一刻も早く電気を」。酪農家からは悲痛な声が上がる。
トタン屋根が吹き飛んだ滝原康司さんの自宅=千葉県鴨川市で2019年9月12日、中島章隆撮影
第八代将軍・徳川吉宗が輸入した牛が飼育され「酪農発祥の地」と伝わる県南部。3代続く酪農家の滝原康司さん(64)∥鴨川市∥は現在、21頭の乳牛を飼育している。9日未明、1人暮らしの自宅と牛舎を台風が襲った。牛舎は事前に窓を開け放っておいたこともあり、電柱をなぎ倒すほどの猛威を振るった風も通り抜けて倒壊を免れたが、長期に及ぶ停電が誤算だった。
電気なしに牛乳は生産できない。牛舎内のフンを片付けるクリーナー、搾乳機、集めた乳の温度管理……。一方、乳牛は細菌に感染すると乳房炎にかかるため毎日の搾乳が欠かせない。電気が止まってから、滝原さんは手作業で乳搾りを続ける。普段は3時間ほどで終わる作業だが、半日かけても搾れる量は通常の3割ほど。そして停電から4日目の12日、恐れていた事態が発生した。搾乳の量が少ないため、4頭が乳房炎にかかってしまったのだ。
滝原さんは「搾った乳は捨てるしかない。このまま続けば全ての牛が乳房炎にかかってしまう」と声を絞り出した。
滝原さんの隣で酪農を営む松本光正さん(56)は60頭ほどの乳牛を飼う。酪農家としては中規模クラスだ。2011年の東京電力福島第1原発事故後、停電時に備えるため約120万円で発電機を購入。今回が初めての出番となった。おかげで生乳を捨てる事態は避けられているが、発電機を24時間つけっぱなしにしなければならず、燃料の軽油が1日約80リットル消えていく。金額にして1万円ほどだ。その軽油も約6キロ離れたガソリンスタンドに毎日行き、長蛇の列に並んでやっと手に入る。
松本さんは「こんなことなら乳を捨てていた方が経済的かも。早く電気が回復してくれないと酪農は続けられない」と悲鳴を上げる。【中島章隆】
乳牛が乳房炎にかからないように、手作業で搾乳をする滝原康司さん。だが、搾った乳は廃棄するしかない=千葉県鴨川市で2019年9月12日、中島章隆撮影
台風15号に伴う大規模停電は、全国有数の生乳産地として知られる千葉県の酪農家に深い爪痕を残している。停電で搾乳機は動かず、牛の健康のためには手作業で乳搾りを続けなければならないが、冷蔵庫も使えないため搾った乳は捨てるしかない。「一刻も早く電気を」。酪農家からは悲痛な声が上がる。
トタン屋根が吹き飛んだ滝原康司さんの自宅=千葉県鴨川市で2019年9月12日、中島章隆撮影
第八代将軍・徳川吉宗が輸入した牛が飼育され「酪農発祥の地」と伝わる県南部。3代続く酪農家の滝原康司さん(64)∥鴨川市∥は現在、21頭の乳牛を飼育している。9日未明、1人暮らしの自宅と牛舎を台風が襲った。牛舎は事前に窓を開け放っておいたこともあり、電柱をなぎ倒すほどの猛威を振るった風も通り抜けて倒壊を免れたが、長期に及ぶ停電が誤算だった。
電気なしに牛乳は生産できない。牛舎内のフンを片付けるクリーナー、搾乳機、集めた乳の温度管理……。一方、乳牛は細菌に感染すると乳房炎にかかるため毎日の搾乳が欠かせない。電気が止まってから、滝原さんは手作業で乳搾りを続ける。普段は3時間ほどで終わる作業だが、半日かけても搾れる量は通常の3割ほど。そして停電から4日目の12日、恐れていた事態が発生した。搾乳の量が少ないため、4頭が乳房炎にかかってしまったのだ。
滝原さんは「搾った乳は捨てるしかない。このまま続けば全ての牛が乳房炎にかかってしまう」と声を絞り出した。
滝原さんの隣で酪農を営む松本光正さん(56)は60頭ほどの乳牛を飼う。酪農家としては中規模クラスだ。2011年の東京電力福島第1原発事故後、停電時に備えるため約120万円で発電機を購入。今回が初めての出番となった。おかげで生乳を捨てる事態は避けられているが、発電機を24時間つけっぱなしにしなければならず、燃料の軽油が1日約80リットル消えていく。金額にして1万円ほどだ。その軽油も約6キロ離れたガソリンスタンドに毎日行き、長蛇の列に並んでやっと手に入る。
松本さんは「こんなことなら乳を捨てていた方が経済的かも。早く電気が回復してくれないと酪農は続けられない」と悲鳴を上げる。【中島章隆】